楽しさいっぱいの「PBJ – The Musical」を生み出したPhilipp Stollenmayer氏の制作ストーリーとプロセス
「PBJ – The Musical」は、Apple Design Awardsを受賞した魅力的な作品です。制作過程における優れた価値、心にくい触覚効果、そして見事なプロモーションで成功を収めました。
「『ロミオとジュリエット』は有名な話です。でも、その道具立てがピーナツバターとイチゴジャムとなると、興味を引かれるでしょう」。こう語るのは、ペーパークラフトの達人であり、「Bacon – The Game」、「Zip-Zap」、そして2020年のApple Design Awards受賞作の「Song of Bloom」など、魅力的でユニークなタイトルを手がけるドイツの独立系デベロッパKamiboxの創設者である、Philipp Stollenmayer氏です。
ストーリー性とゲーム性をバランスよく両立し、2025年のApple Design Awardsをイノベーション部門で受賞した「PBJ – The Musical」は、イチゴの女の子とピーナツの男の子の甘くて切ない運命を描く、物理演算を活かした遊び心と活気にあふれるゲームです。プレイヤーは、まるで1950年代の雑誌のビジュアルにコマ割りアニメで命を吹き込んだような手作りの切り抜きコラージュの世界で、不運な二人の主人公をやさしく操作し、サンドイッチになるという逃れられない宿命の結末へと導きます。
対応デバイス:iPhone、iPad
チームの規模:2人
拠点:ヴュルツブルク(ドイツ)
受賞歴:Apple Design Awards(2025年、イノベーション部門)
ストーリーのテンポは舞台さながらで、次の幕に移ると前回のおさらいが入ったり、魅惑的なデュエットがあったり。しわくちゃの紙でできたヤシの木、段ボールのキッチンなど、質感のあるビジュアルも効果抜群。全体の雰囲気は、学芸会とブロードウェイが混じり合ったかのようです。
Stollenmayer氏がこの作品のアイデアを思いついたのは、もう何年も前のことでした。偶然の出来事がきっかけで、そのアイデアを実現するためのパートナーが必要だったことが明らかになりました。ある日、何の気なしにテレビのチャンネルを切り替えていたStollenmayer氏は、ある出演者に興味を引かれます。それは、「Britain’s Got Talent」に出演していた風変わりなイギリスのミュージシャン兼ソングライター、Lorraine Bowen氏でした。
Stollenmayer氏は、しわくちゃの銀色のドレスに大きな真珠のネックレスを着け、赤い眼鏡をかけたこの歌手に魅了されます。Bowen氏は、アイロン台の上に置かれたカシオのキーボードを弾きながら、イギリスの伝統的なお菓子であるクランブルを作る歌を歌っていました。歌詞はこうでした。「In fact, I’ve got one in the oven,Would you like some?(今もオーブンでクランブルが焼けてるのよ、お少しいかが?)」辛口なことで有名な審査員Simon Cowell氏はまったく興味を示さず、Bowen氏が最初の一節を歌い終える前に「不合格」のレッドブザーを押しました。ほかの審査員2人も同様でした。
英国のテレビ番組でのLorraine Bowen氏(左)の型破りなパフォーマンスを見て、Philipp Stollenmayer氏(右)は彼女が音楽面での理想的なパートナーになると確信しました。「彼女の音楽のユーモアは、私のゲームと同じくらい風変わりでした」とStollenmayerは言います。
それでも彼女は歌い続け、オーディエンスの心をつかみます。そして、審査員のDavid Walliams氏がゴールデンブザー(即合格のブザー)を押し、Bowen氏は次のラウンドに進んだのです。Stollenmayer氏は、彼女の音楽こそ、自分が求めていたものだと確信しました。彼はこう振り返ります。「彼女の音楽のユーモアは、私のゲームにきっとマッチすると思いました。だって、どっちも同じくらい風変わりでしたから」。Stollenmayer氏はBowen氏に、ビデオゲームでコラボしないかとメールで問い合わせました。Bowen氏は、メールの送り主は子どもだろうと思ったそうです。
「よく、自分たちのプロジェクトに参加してほしいというメールを小さな男の子たちからもらうんです」と、Bowen氏は笑いながら言います。「だから、あの時もそれだと思ったの。『じゃあ学校の先生と相談して、プロジェクトについて教えてね』と返事しようと思ったら、幸い彼が『それと、最近Apple Design Awardsを受賞しました』って書いてくれてたのよ」
Lorraine Bowen氏(「PBJ」の作曲担当)
二人は、ピーナツバターとイチゴジャムのサンドイッチがいかにして生まれたかについて語る、コミカルなシェイクスピア風の物語の制作に取りかかりました。物語は、紙の切り抜きによるアニメとちょっと奇妙な歌によって描かれます。制作のスタートとして、Stollenmayer氏はBowen氏に10幕分の絵コンテ(Stollenmayer氏は「足場」と呼びます)を送りました。Bowen氏が音楽で自由に物語を形作れるようにすることが、Stollenmayer氏の狙いでした。「最初は大変だったんです」とBowen氏は語ります。「ソファに寝転んで、巨大な絵コンテを眺めながら、途方に暮れました。『一体これを、どういう方向に発展させればいいのかしら?』って」
因習を振り払い二人の夢に向かって歩み出すイチゴとピーナツを表現する印象的な曲の数々をBowen氏が作曲できるまでには、ほぼ一年かかりました(彼女はそれらの曲についてこう語ります。「とにかく、耳に残る曲にしたかったんです。この曲たちのせいで、今でも夜眠れなくなることがあります」)。しかし、10幕の作品のための曲作りよりも厳しい、本当の困難は別にありました。それは、プレイヤーがステージ内のどこかにとどまった時に流れ続ける、ループ音楽のセグメントの作曲です。
奇想天外なビジュアルですが、ゲームを実際にプレイすれば、誰でもこの世界にどっぷりハマることでしょう。
彼女はこう説明します。「そういうセグメントは、かっちりとした一般的なヴァース-コーラス形式の曲とは異なります。プレイヤーがどこから来て、どこへ向かっているのかを示す、区切りのような効果が求められました。そのため、この場面には身体的な動きがあるのか、エモーショナルな場面なのか、それとも夢のような雰囲気なのか、といったことを考える必要がありました」
アナログならではの生音にこだわるStollenmayer氏にすっかり共感したBowen氏は、デジタル音源に頼るのではなく、実際に楽器を演奏できるミュージシャン仲間を集めました。「クルムホルン、リコーダー、ホイッスルなど、使えそうなものは何でも使いました」と彼女は笑います。キャストには、イチゴちゃんの役でBowen氏のピアノの生徒が、ピーナツくんの役で友人の子どもの男の子が参加しています(男の子はアメリカ訛りを練習したそうです)。Bowen氏によると、ピーナツくん役のこの男の子は6歳。ゲームでは、彼による「たくさんの素敵な言い間違い」をフニャフニャの字幕のまま残しており、それが訂正が加わるたびにシャッフルされます。
さて、音楽は完成しました。今度はStollenmayer氏がビジュアル制作に取り組む番です。始めるにあたり、彼は自らに厳格なルールを課しました。それは、ゲーム内のアセットには、物理的なオブジェクト(をデジタル化したもの)しか使わないというものでした。「粗雑な感じの紙を使ったコマ割りアニメを作りたかったんです」とStollenmayer氏は言います。「でも、それは思った以上に困難でした。私は普段、すっきりとした物が美しいと思っているので。円は完全なまんまるに、線はまっすぐに、という感じです」
Stollenmayer氏は、少し汚れた感じの画用紙に描かれたシェフや入浴する美女の古風な白黒写真など、何百ものビジュアル要素をプリントし、子ども用のハサミで、味のあるラフな感じに切り抜きました。それらをスキャンして、しわや光沢、細かい不揃い感を加えるカスタムビジュアルシェーダを適用しました。さらに、古い新聞のにじみや印刷のズレを再現するために、薄くてペラペラの新聞用紙まで大量に仕入れました。「乱雑でしわくちゃなテイストが欲しかったんです」とStollenmayer氏は語ります。
「PBJ」の驚異的なペーパークラフトの世界を創造するために、Stollenmayer氏は何百ものビジュアル要素を集め、子ども用のハサミで切り抜きました。
Stollenmayer氏は、ステージのデザインと物理演算に取りかかる前に、ゲームのビジュアルに2年もの期間をかけました。「イチゴはフレッシュかつフニャフニャに仕上げました。歯車の間に挟まれたりできるんです」と彼は言います。「ピーナツは硬くて、1つの軸でしか曲がりません。だから、操作はより精密な感じになります」
しかし、このゲームを背後で支える重要な原理は「重力」です。手作りのコラージュではすべての物が完全に平らではないので、キャラクターたちを、本当に物理的な世界で弾んでいる感覚を保ちながら操作できる方法を考える必要がありました。「重力がどのように変化するかをつかめたことが、制作を大きく進展させる突破口になりました」とStollenmayer氏は言います。ゲームでは、それとない方法で、シーンを進行させるためのルートをキャラクターに示します。
「PBJ – The Musical」は見事なまでにエンターテインメント性の高い作品である一方、誰でも気軽にプレイできます。自動アシスト機能により、プレイヤーが画面を操作しないまま一定時間が経過すると、やがて星が現れてキャラクターをそっとステージの先へと導いてくれます。これは、サプライズの要素を損なうことなく、ゲームに慣れていない人にも楽しんでもらうための、アクセシビリティに配慮した工夫です。「誰でも楽しめるゲームなんです」とStollenmayer氏は言います。
このアクセシビリティは、Stollenmayer氏にとって最大の誇りとなるような、思いがけないファンを生み出しました。絶賛のレビューやアワードの受賞も素晴らしいですが、誰でも、自分の母親からほめてもらえることほど嬉しいことはないものです。「ゲームをいつも母にテストしてもらっていますが、必ずしも気に入ってくれるとは限りません。母がプレイしたいと言ってくれること、それが私にとって最高のフィードバックです」とStollenmayer氏は語ります。「母は、まさに画面に釘付けでした。何より嬉しい光景でした」